地球上に存在する水資源のうち、人間が容易に使える淡水は僅か0.01%にしかすぎず、その僅かな淡水資源の9割が湖沼とその流域に存在しています。湖沼は、私たち人間に最も多様な生態系サービスを提供してくれる水系生態系でありますが、一方で、私たち人間の活動の影響を最も受けやすい脆弱な水システムです。
現在、人間による湖沼資源の持続不可能な利用や、進行する地球温暖化の影響などによって世界の多くの湖沼環境の悪化が進行しています。専門家による今後10年間に多大な悪影響を及ぼす可能性の高い潜在的リスクをまとめた「グローバル・リスク」においては、2015年から3年連続して「水の危機」が上位にランクされています。しかし、湖沼は世界の水管理の主要なテーマになっているとは言えないのが現状です。世界の水資源問題を考えるとき、今こそ湖沼のもつ重要な役割が再認識されるべきであります。湖沼は、その特性ゆえに持続可能な管理が最も難しい水システムであり、その管理には特別な配慮が必要です。このことから持続可能な湖沼流域管理はすべての水管理の基礎となると言っても良いでしょう。
2015年9月にニューヨークで開催された国連サミットでは「持続可能な開発のための2030アジェンダ」とともに、今後15年に亘り行動を促進することを目的として17の「持続可能な開発のための目標(SDGs)」が採択され、そして、その中の6番目(SDG6)の目標として、新たに「すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する」ことが掲げられました。
私たち国際湖沼環境委員会(ILEC)は、1986年の設立以来、世界の湖沼の適正な環境管理を支援するために、日本国内及び海外の関係機関と協力し、調査・研究活動(世界湖沼データベースや湖沼管理ガイドライン、世界湖沼ビジョンなどの作成)、人材交流や人材育成(環境教育やJICA研修など)を進めてきました。また、近年では、持続可能な湖沼流域管理を支援するため「統合的湖沼流域管理(Integrated Lake Basin Management:ILBM)」の普及に取組んでいます。ILBMは「湖沼流域イニシアティブ・プロジェクト(GEF:地球環境ファシリティ、2003-2005)」を契機とする一連の国際的な調査・研究を通してILECが提唱してきた考え方で、湖沼の自然科学的な特性を踏まえ、湖沼とその流域における生態系サービスの持続可能性を追求するために、流域住民の主体的な役割に支えられた流域社会全体が、長期的・段階的・継続的に「流域ガバナンス」を改善していく取組です。
現在、ILBMは、統合的水資源管理(IWRM)を補完する枠組として、それに基づく取組(ILBMプラットフォームプロセス)が世界各地の湖沼流域で展開されています。ILBMプラットフォームプロセスは今も進化し続けており、ILECはILBMグローバルセンターとして、今後もその改善と普及に努めてまいります。さらに、ILECは、国連環境計画(UNEP)との連携協力に関する覚書を2016年8月に更新し、これらの取組を行う中でSDGsの達成に向けて貢献していくことを約束しています。こうしたILECの活動に、今後とも皆さま方の更なるご支援、ご協力をお願いいたします。